経営者が「人がいない」と感じたときに整理すべきこと

採用より先に、「何が問題か」を診断する

「人がいない」という感覚は経営者が抱える最も切実な悩みの一つだ。しかしこの感覚は、実際には複数の異なる問題が混在していることが多い。採用で解決すべき問題なのか、別のアプローチが有効なのか。本記事では、「人がいない」という感覚を正確に診断するための視点を整理する。

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「人がいない」には複数のパターンがある

「人がいない」という言葉が指す状況は、実は一つではない。以下のように複数の異なるパターンが存在する。まず「絶対的な人手不足」——業務量に対して単純に人員が足りていない状態だ。次に「能力的な不足」——人は揃っているが、必要なスキルや経験を持った人材がいない状態。そして「配置の問題」——適切な能力を持った人材が適切なポジションにいない状態。さらに「意欲の問題」——人はいるが、主体的に動ける人がいない状態もある。

これらは似ているようで解決策がまったく異なる。「絶対的な人手不足」であれば採用が直接的な解決策になるが、「配置の問題」であれば社内の異動や業務の再設計で解決できる可能性がある。「意欲の問題」であれば、採用よりも先にマネジメントや職場環境の改善が必要だ。

経営者が「人がいない」と感じたとき、まず問うべきは「どのパターンの人がいないのか」だ。この診断を曖昧にしたまま採用活動を始めると、採用しても問題が解決しないという事態が繰り返される。自社の人材不足が何に起因するのかを正確に見極めることが、効果的な打ち手を選ぶための出発点となる。

採用で解決しようとする前に検討すべき選択肢

「人がいない」という課題に直面したとき、多くの経営者は即座に採用活動を開始する。しかし採用は時間もコストもかかる手段であり、他の選択肢を検討せずに飛びつくと、非効率な投資になることがある。

まず検討すべきは業務プロセスの見直しだ。現在の業務のやり方が非効率で、不要な工程が積み重なっているケースは多い。デジタルツールの導入や業務フローの整理によって、現有人員で同等またはそれ以上の成果を出せる可能性がある。特に中小企業では、ITツールの活用が遅れているために人的工数が過剰に消費されているケースが散見される。

次に検討すべきは、外部リソースの活用だ。業務委託・アウトソーシング・派遣など、正社員採用以外の選択肢は多様化している。特定の専門スキルが必要な業務や、繁閑差が大きい業務は、外部化することでコスト効率と柔軟性を両立できる。採用して固定費を増やす前に、外部リソースで対応できる領域を特定することが賢明だ。また既存社員の多能工化(複数の業務をこなせる人材への育成)も、人手不足解消に有効な手段の一つだ。

「欲しい人材像」が明確でないまま採用しない

人材不足を感じている経営者が採用活動を始める際、最もよくある失敗が「誰を採ればいいかが曖昧なまま」採用を開始することだ。「とにかく即戦力が欲しい」「なんでもできる人が欲しい」という曖昧な要件では、選考基準が定まらず、採用しても期待と実態がズレることが多い。

欲しい人材像を明確にするためには、以下のプロセスが有効だ。第一に「今の組織に何が足りないか」を機能の観点で整理する。第二に「その機能を発揮できる人はどんなスキル・経験・特性を持つか」を具体化する。第三に「自社が提供できる成長機会・報酬・環境は何か」を正直に棚卸しする。この三つが揃って初めて、採用要件と採用メッセージを整合させることができる。

また「今すぐ欲しい人材」と「中長期的に育てたい人材」を分けて考えることも重要だ。即戦力採用と育成採用では、求める要件も採用チャネルもまったく異なる。両者を混同したまま採用活動を進めると、選考が迷走し、優秀な候補者を逃し続けることになる。

まとめ:「人がいない」を診断する習慣が組織を強くする

経営者が「人がいない」と感じたとき、反射的に採用活動を始めるのではなく、まず状況を正確に診断する習慣をつけることが重要だ。人材不足のパターンを見極め、採用以外の選択肢も含めた最適解を探し、欲しい人材像を明確にしてから採用活動を開始する——この順序を守るだけで、採用の成功率は大きく変わる。

人材課題は経営課題の中でも最も構造的で長期的な問題だ。焦りから場当たり的な採用を繰り返すのではなく、自社の人材課題の根本を理解し、計画的に取り組むことが、持続可能な組織づくりの基盤となる。「人がいない」という問いに、経営者として誠実に向き合うことが第一歩だ。

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