なぜ経営者と現場の間にズレが生まれるのか
経営者と現場の認識ズレは、採用に限らず多くの経営課題の根本にある問題です。しかし採用の場面では、このズレが特に大きなダメージをもたらします。経営者は「会社の将来を担う人材」「変革を推進できる人」を求める一方、現場の管理職は「すぐに戦力になる人」「既存メンバーとうまくやれる人」を優先します。この二つの視点はどちらも正しいのですが、採用の場面で統合されないまま選考が進むと、内定後に「思っていた人と違う」という齟齬が生じます。なぜこのズレが生まれるかというと、経営者と現場が採用について事前に十分な対話をする機会を持っていないからです。求人票を作成する段階で、経営者が考える会社の方向性と、現場が抱える実際の業務課題を丁寧に擦り合わせる場が設けられていることは意外と少ない。多くの場合、人事部門が間に入って「それらしい」求人票を作りますが、経営層と現場両方の意図を本当の意味で統合できているケースは限られます。結果として、選考途中で「この人は現場には合わない」「この人では経営が求めるレベルに足りない」という判断の食い違いが起き、優秀な候補者を逃したり、内定を出した後に社内で不満が生じたりします。
採用観の乖離が採用活動全体に与える悪影響
経営者と現場の採用観の乖離は、採用活動のあらゆるフェーズに悪影響を及ぼします。まず求人票の段階では、抽象的で矛盾したメッセージが生まれます。「主体的に動ける人」「チームワークを大切にする人」「即戦力として活躍できる人」「長期的に育てたい人」——こうした相反する要素が一つの求人票に詰め込まれ、求職者に混乱を与えます。次に面接の段階では、面接官によって評価軸がバラバラになります。経営者は「ビジョンへの共感度」を重視し、現場マネージャーは「スキルの即戦力性」を重視し、人事は「カルチャーフィット」を重視する——それぞれが別々の観点で候補者を評価するため、最終的に「誰も反対しないが誰も強く支持しない」人材が選ばれてしまうことがあります。さらに入社後の段階でも問題は続きます。現場は「即戦力を期待していたのに使えない」と感じ、経営者は「なぜ現場はあの人を活かせないのか」と思い、採用された人は「自分に何を期待されているかわからない」と混乱する。このような三者の認識のズレは、入社した人の早期離職に直結します。採用活動において「誰が何のために採るのか」という基本的な対話を社内で持てているかどうかが、採用成功の重要な前提条件です。
経営者と現場の認識を揃えるための実践的アプローチ
経営者と現場の認識ズレを解消するためには、採用活動を始める前の「内部対話」を重視することが不可欠です。具体的には、採用ポジションごとに「採用の目的を定義するセッション」を設けることが有効です。このセッションでは、経営者・現場マネージャー・人事担当が同じ場に集まり、「なぜこのポジションを採用するのか」「この人に1年後にどんな状態になってほしいか」「選考で最も重視すべきポイントは何か」を言語化します。このプロセスを経るだけで、三者の認識の差が明確になり、採用基準を統一することができます。また、選考プロセスにおいても役割分担を明確にすることが大切です。「1次面接は現場マネージャーがスキルと実務能力を評価する」「2次面接は経営者がビジョンへの共感度と成長ポテンシャルを評価する」「最終的な意思決定は両者の評価を統合して行う」といった形で、各段階での評価責任者を明確にします。さらに、採用した後のフォローについても事前に合意しておくことが重要です。現場が「思っていた人と違う」と感じたときにどう対処するか、経営が期待する役割をどうやって現場に伝えていくかを、採用前から議論しておくことで、入社後の摩擦を事前に軽減できます。
まとめ:採用は社内対話から始まる
採用を難しくしている要因の多くは、外部市場の競争激化ではなく、社内の対話不足にあります。経営者と現場が別々の採用観を持ったまま採用活動を進めることは、どれだけ優秀な候補者と出会っても「内定辞退」「早期離職」「活躍できない」という結果につながります。採用力を高めたいなら、まず社内の採用観を統一することから始めてください。求める人物像を一枚の紙に書き出し、経営者と現場が同じ言葉で語れる状態を作ることが、採用改善の最初の一歩です。外部の採用支援会社や採用媒体を変える前に、社内でのコミュニケーションを整えることが先決です。採用は外向きの活動に見えますが、その成否は内向きの対話の質によって大きく左右されます。経営者と現場が同じ方向を向いて採用に臨める組織こそが、採用市場において本当の競争力を持つことができます。